TRIP IDEA 001|アートにも注目の薮原宿

地元ガイドと歩く新緑の鳥居峠

江戸時代に整備され、東海道とともに江戸と京都をつなぐ主要な街道となった中山道。その中間に位置する木曽路では現在もウォーキングを楽しむ旅行者の姿が見られます。
今回はその中でもハイキングコースとして人気の鳥居峠を含む約6kmのコースを、ガイドさんと一緒に散策しました。

本日の行程は、藪原駅からスタートして薮原宿~鳥居峠~奈良井宿と歩いて、奈良井駅から電車で藪原駅に戻るという所要時間約4時間のコースです。
案内してくださったのは木祖村観光協会のガイドさん。コースの見どころでは、手持ちの資料も使ってわかりやすく説明してくださいました。

アートにも注目の薮原宿

集合場所の薮原駅前で軽く準備体操をしてから、さっそく歩き始めます。
駅の改札口は東側になりますが、旧中山道を歩くため線路をくぐって反対側へ。まず案内していただいたのが、駅舎の裏手にある一里塚跡の石碑。

石碑のすぐ後ろには蒸気機関車があり、写真撮影をする方も多いのだとか。

ここからは中山道に沿って北へと向かいます。
宿場に入ると、所どころでツバメをかたどった看板が目に入ります。書かれているのはその看板が掲げられている家の屋号で、木祖村の元地域おこし協力隊の方の作品だそうです。

アーティストさんたちのアトリエにもなっている『藤屋』という屋号を掲げた建物から挨拶に顔を出してくれたのは笑顔が素敵な大沢さんです。地域おこし協力隊として着任してから、その任期が終わった現在もアートやイベントなどを通して地域の活性化を目指して活動している大沢さん。秋には今年で5年目になるアートプロジェクト『木曽ペインティングス』が開催されるそうです。
薮原宿の通りを歩いていると、あちらこちらに見られるアートが目を楽しませてくれます。

宿場内にはほかに、木祖村特産品『お六櫛(おろくぐし)』の問屋さんや漆器店、お菓子屋さん、造り酒屋さんなどもあり、興味があるお店には立ち寄りもできます。

そして今回は、観光協会さんにお昼のお弁当の手配もしていただきました。お弁当を作ってくださったのは『食彩工房 そば実』さん。地元のお母さんたちが、お弁当のほか、お惣菜やお菓子なども作って販売しています。宿場内にあるお店で受け取ったお弁当は、手作りのおかずがぎっしり詰まってボリュームたっぷり。峠に持っていく場合は、持ち運びしやすいようにおにぎりとおかずに分けて作ってくれるそうですよ。
同じくそば実さん手作りのお菓子、『そば実かりんとう』と『えごまボーロ』もさくさく香ばしくて旅のお供にぴったり。それぞれ、そば粉とえごまを使って作られているので体にも良さそうです。

お弁当を作ってくださったそば実の山口さんが、お店の入り口に描かれた似顔絵と一緒にお見送りしてくださいました。これで峠越えも頑張れそうです!

宿場を歩きながら、出会った地域の方々に「こんにちは」と声をかけると「こんにちは。峠かい?」「今日は天気がいいね」と気さくに返事をしてくださいました。地元の方との交流も、旅の楽しみのひとつです。村の方々の明るい声に見送られて宿場の北の急な坂道を上り進んでいくと、宿場のはずれにある神社『天降社』が見えてきます。
立派なもみじの木を見上げながらさらに進むと道幅が狭くなり、両側にカラマツの林が現れます。
ここに来て一層大きくなったセミの声が、初夏を感じさせます。

中山道の難所、鳥居峠越え

道が二手に分かれたところにあるコースの案内板を見ながら、ガイドさんに峠の見どころを教えていただきました。そして左の中山道の方へ進むと、先ほどまでとは変わって空気がひんやり涼しく感じます。

鳥居峠越えコース案内板

すぐに見えてくる石畳の道は復元されたものだそうですが、風情があってとても良い雰囲気です。

『鳥居峠』と刻まれた石碑を過ぎ、つづら折りの峠道を歩きます。途中で、木曽の初夏の名物『ほおば巻き』にその葉が使われる朴(ほお)の木と、この先に巨木が群生し木祖村の天然記念物にも指定されているトチノキが、並んで生えている場所がありました。

この二種類の木はよく似ているのですが、隣に並んでいるとその違いがよくわかります。
見分け方はいくつかあるということなので、ガイドさんに聞いてみてくださいね。花を見れば一目瞭然だそうですが、花の時期にはまだちょっと早かったようです。

中腹の、林立する木々が途切れた場所には屋根付きの展望台があり、薮原宿の街並みが一望できます。

景色を楽しんだ後は、展望台の近くにある森林測候所跡で少し早めのお昼休憩。旬の山菜や野菜、肉、魚などが彩りよく並べられた、そば実さん手作りのお弁当をおいしくいただきました。

さて元気が出たところで再び出発です!

先ほどの展望台の少し上の平らになった場所は丸山公園と呼ばれていて、松尾芭蕉をはじめ俳人の句碑や石碑が並びます。
そしてここから少し上ったところには御嶽(おんたけ)神社があります。

神社へ向かう階段の上には、鳥居峠の名前の由来となったとされる石の鳥居がそびえています。鳥居の奥にある神社の建物の前、足元にある平たい石がオーストラリアの国の形に似ていると話題になり、実際に見てみたいと訪れる海外からの観光客も多かったのだとか。

建物の左手にまわると、『御嶽山(3067m)眺望所』の案内板があり、連なる山の向こうに残雪の御嶽山の上部がきれいに見えました。江戸時代の旅人も、難所といわれた鳥居峠を歩き、ここで御嶽山を拝んで旅の無事を祈ったのだと思うと感慨深いです。

御嶽神社を過ぎると道は緩やかになり、新緑の葉を茂らせたトチノキの大木が現れてきます。

その中の一本が『子産みの栃』と呼ばれ、案内板にはこの木にまつわる言い伝えが書かれていました。秋には栃の実を拾いに来る方もいるそうです。

次の休憩場所『峰の茶屋』(現在はトイレ・休憩所のみ)へ向かう途中で、山の向こうから残雪の乗鞍岳がほんの少し顔をのぞかせるポイントがありました。ガイドさんによれば鳥居峠で乗鞍岳が見えるのはこの場所だけだそうです。ぜひ、探してみてくださいね。

峰の茶屋でひと休みした後は、ひたすら下ります。
途中、『中の茶屋』という昔のお茶屋さんの跡の近くに、『葬沢ほうむりざわ』というちょっと怖い名前の付いた沢がありました。
戦国時代、木曽義昌が武田軍と戦った古戦場跡で、その時の戦死者を葬った場ということからこの名前が付いたそうです。「暗くなってから通りたくないですね…」と話しながら少し下った先には、小さな観音さまが穏やかな顔で手を合わせていました。

さらに下ると道は石畳になり、続く階段を降りると舗装道路に出ます。

すぐ先にあるカーブの外側、木立の方へ少し入ると、奈良井宿を上から見下ろすことができる場所がありました。

線路沿いに続く家並みは普通の民家のように見えます。
奈良井宿といえば江戸時代の面影が色濃く残る宿場町ですが、角度を変えるとまた違った印象になるんですね。

江戸時代へタイムスリップ、奈良井宿

宿場へ向かっていくとまず左手に現れるのは『鎮(しずめ)神社』。

かつて奈良井宿で流行った疫病を鎮めるために、下総国(現在の千葉県)香取神社から分霊を迎えて祀ったことからその名前が付けられたそうです。感染症の流行が早く収まりますようにと願いを込めてお参りしてきました。

(奈良井宿は塩尻市になるので、木祖村観光協会のガイドはこの辺りまでだそうです。どうもありがとうございました!)

さて宿場に入ると、まず左手に水場と高札場(こうさつば)があります。

高札場というのは、幕府や領主が定めた法律などを、人々に知らせるため木の板に書いて掲げた場所です。こちらは復元されたものだそうですが、奈良井宿は約1kmという日本最長の宿場だけあって、高札場も大きく立派です。その向かいには石置き屋根の家があり、レトロな雰囲気が漂います。そして歩くにつれ、情緒ある家並みに囲まれて、まるで江戸時代にタイムスリップしたような気分になります。

奈良井宿には、雰囲気の良いカフェや食事処、お土産屋さん、資料館、お寺など立ち寄れる場所も多いので、電車の時間までゆっくり散策しながら過ごせます。余裕があれば、線路の反対側、奈良井川にかかる総檜造りの『木曽の大橋』へ足を運んでみるのもおすすめです。

また薮原⇔奈良井の間では、峠を歩く方向けに、ひのき笠と熊鈴の貸し出しをしています。

木祖村観光協会または薮原宿の『笑ん館(わらんかん)』で借りた方は、奈良井宿の中ほどにある奈良井宿観光案内所へ返却すると預り金が戻ってきますので、忘れずにお寄りくださいね。

木漏れ日の中、新緑に包まれた峠道を歩くのは、本当に気持ちが良いものです。便利になった現代において、車や電車なら数分で通り抜けてしまう距離。小鳥のさえずりや木々の葉擦れの音、川のせせらぎを聞きながら、江戸時代の旅人は何を思い、峠を越えたのでしょうか。

今回のガイドウォークを終えて、ひとりでは何気なく通り過ぎてしまうような場所も、ガイドさんといると新しい発見につながって、中山道の魅力をより深く感じ、新しい知識を得ることができました。峠は歩きなれないという方や、木祖村の文化や歴史、自然に興味がある方はもちろん、地元のことをいろいろ聞いてみたいという方も、ぜひ一緒に歩いてみてはいかがでしょうか。

取材日:2021年5月28日

ガイド予約はこちら
事業所名 :
一般社団法人 木祖村観光協会
所在地  :〒399-6201 長野県木曽郡木祖村薮原196
電話番号 :0264-36-2543
ファックス:0264-36-3340
体験時間 :約4時間
料金   :ガイド料(1名~5名まで6,500円/6名~10名まで9,500円)
※上記はガイド1名の場合です。お客様が10名を超えるとガイドが1名追加となり2名分の料金になります。
※電車代(奈良井-薮原間)、昼食代別途です。

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